フランス刺繍で作品集
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私が子供の頃に知っていた女性の話です。その方は当時30歳既婚で小さいお子様がふたりおいででした。
同じマンションに住んでいましたので、顔見知りで子供たちとも遊んだことがありました。
その方は静かでお子たちを怒ることはまず皆無、常に家の中にいてフランス刺繍をしていました。
ご主人は商社勤務でしたので家政婦さんがなにもかもをしている生活でした。その方の刺しゅうはご自分では趣味よ、とは言いながらも私からみても本物でプロ級の腕前でした。
だって、フランス刺繍のために、たたみ一畳の大きさのワクに生地を張っているのです。
しかも平行してその大きさの作品が常に3点。内容は風景や女の子やバラなどの花模様、和風では小紋の柄などが居間いっぱいにその美しい光景をみせているのでした。
室内の壁は一面にフランス刺繍の作品や図案でさながらどこかのギャラリーのよう。彼女は食事の支度などそっちのけで刺しゅうに没頭している姿を何度も見かけたものです。
図案はもちろんご自分でしていましたし、糸はとりどりの鮮やかさで私を魅了しました。
フランス刺繍は慣れるまでちょっとタイヘンだけど、今はもう夢中で、が彼女の口癖だった。
図案を見ながらものすごいスピードで、次々とうっとり見とれるほどの作品を仕上げていく様は神の手をかんじるものでした。
後日談はまだあるのですが、フランス刺繍といって思い出すことは、夏椿のような一日だけ精一杯咲いてぽとりと散る、そんな彼女のもつ繊細で優雅な趣、それにつきるのです。

